【スペイン蹴球戦術論III】スペインサッカーの戦術用語 オフェンス編③

Buenos Dias! Come estas? (おはようございます!みなさん、お元気でしょうか?)

本日もベルビュースポーツアカデミー/ベルビューフットボールクラブ府中(BFC府中)のホームページにご訪問頂き、ありがとうございます。

本日もスペイン蹴球戦術論講座オフェンス編第3弾について説明したいと思います。

マドリッドに行った時に思ったのですが、スペイン人の皆さんは普段は非常にゆったりとして、のんびり過ごしている方が多いです。この国はシェスタという文化があり、昼食後に昼寝をする文化があります。私が今いるフィリピンでも昼休みは1時間程度ですが、20分位で昼食を取り、その後は部屋を暗くして、みんなで昼寝をしています。これもフィリピンは1542年から長い間スペインに占領されていたため、このような習慣があるのだと思います。

また、スペイン人の方は皆さんおしゃべりが好きで、コーヒーを片手に数時間のんびりと談笑しています。

私が滞在したホテルからAFENという指導者学校まで徒歩で15分位あったのですが、通学途中の街中のカフェではたくさんのスペイン人の方がいて、人生を楽しんでいるように感じました。

さて、そんなスペイン人の皆さんですが、フットボールの事になると豹変して、日本人には考えられない位、熱くなります。ジュニアカテゴリーでも審判に対するブーイングや選手のプレイに対しても良いプレイや何本もパスがつながったり、素晴らしいドリブル、ゴラッソがあるとみんなが歓声を上げて、喜びます。

各町に必ずサッカークラブがあって、観客席付の人工芝のミニスタジアムがあって、そこでは小学生から大人までがプレイしています。また、隣接したカフェもあり、皆さんそれぞれが様々な形でサッカーを楽しんでいます。

そんな光景を見て、スペインではサッカーが日々の生活に浸透して、文化になっていると感じました。同時に、自分が住んでいる府中にも同じようなクラブを提供できないかと思いました。

個人戦術・グループ戦術とは何か?

さて、今日は攻撃編第3弾戦術となりますが、スペインで色々なカテゴリーの練習を見学して感じたことは、どの年代でも、小学生でも中学生でも、戦術がしっかりしていて、練習メニューの内容、流れ、考え方なども一貫しており、ほとんど変わらないという事です。

小学生の時から、公認のライセンスを持った指導者からゲームモデル、戦術をインストールされると、20歳位でサッカー選手としては完成するよな~と妙に納得してしまいました。

そして、年代が上がると球際の強さ、インテンシティがどんどん上がっていき、その中でプレイをすることが要求されるため、自ずと技術レベルや戦術レベルも上がっていくというのを感じました。

2回のスペインでの指導者研修を経て、私も指導の考え方が変わりました。それまでは、長時間ボールに触っている事、個の技術を磨くことを重要視していました。例えばリフティングだったり、コーンドリブルであったり、1対1をひたすらやり続ける事だったりです。実際にそうゆう練習をすることで市内の大会では優勝したり、入賞したりするのは難しくありませんでした。

しかしながら、スペインに行ってから、練習時間は90分以内を心掛けて、その90分間の中でインテンシティを最大レベルに上げるために、1つのトレーニングメニューは10分以内、実際のゲームに近い再現性の高いトレーニングを行う事を意識するようになりました。

毎回の練習前に、メニューを考えて、練習開始の30分前にはグランドに行き、事前にコーンを並べて、休みの時間をできるだけ少なくして、あっという間に練習が終わるように心掛けました。これもスペイン人の指導者からアドバイスを受けたので、実践してみました。

最初は保護者や選手の皆さんからは中々理解を得ることはできませんでしたが、1年程度そのやり方を続けていくと、選手達のやっているサッカーのレベルが徐々に変わってきて、よりインテリジェンスのあるフットボールを展開するようになったと記憶しています。

Principios Ofensivos (オフェンス原則)⑥コンセルバシオン・デル・バロン(Conservacion del Balon)

特徴
ボール保持(ポゼッション)


■ボールポゼッションを失うことなく行われる、繰り返された動作。
 -ポゼッションを行うチームがゲームを展開し、舵を取る。
 -イニシアチブとボールを保つこと以外の動作は行わない

■目的を維持する、プレーのリズムを強要させる、相手にイニシアチブを与えない。

具体的な特徴・練習内容

<1st Step>ボール保持者に”プレッシャー”をかけない。

<2nd Step>簡単なシチュエーションで練習すること – ライン毎やあるエリアの範囲毎で、など

<3rd Step>ロンド等の狭い局面でのパス回し。パス・タッチ数制限、数的優位→同数→不利、ポジショナルプレー

ポゼッションという言葉を流行らせたのは、2006年頃にグアルディオラ監督時代のFCバルセロナ、日本では西野監督時代のガンバ大阪だと思います。

百聞は一見にしかずということで、大分古い映像になりますが、実際に下記の動画を見てみてください。

バルサ対レアルの動画となりますが、レアル相手にこれでもかという位、ロンドの練習のように何本も何本も綺麗にダイレクトでポゼッションしています。

コンセルバシオン・デル・バロンは戦術用語というよりもスペイン代表、バルサ、ティキタカを象徴する用語になりました。

この動画を見るとわかりますが、サポート(アポジョ)の角度、コントロールオリエンタード、リズム変化(カンビオ・デ・リトモ)が非常に高いレベルで行われています。また走るスピードはそれほどではありませんが、パススピードもものすごい速くて、判断も素早いのもわかると思います。

実際にスペイン人の方々はこのようにコンセルバシオン・デル・バロンでポゼッションをするのが好きで、監督やコーチもバルサのフットボールを理想にして、日々のトレーニングも構築しています。

最近では、バルサスタイルは幻想と言われ、昔のフットボールと言われて、勝つためには前からのハイプレス、ショートカウンター、フィジカル・スピードを重視したゲームモデル・戦術に変わりつつあります。

それでも、この「コンセルバシオン・デル・バロン」のオフェンス原則・戦術はスペインサッカーの土台であり、欠かせない戦術だと言えます。

Principios Ofensivos (オフェンス原則)⑦カンビオ・デ・オリエンタシオン(Cambios de Orientacion)

特徴

サイドチェンジ

ボールの進行方向が変わる短中長距離の送球で行われる。
【目的】フリースペースを利用、相手を混乱、攻撃に幅を与える、相手の背後を狙う

具体的な特徴・練習内容

【練習とメソドロジー】
◆メカニズムを指導すること。(コントロールオリエンタード+パス=カンビオ・デ・オリエンタシオン)
◆体の向き=スピード
◆レーンごとにピッチを分ける事
◆攻撃の基本プレー
◆サイドにゴールを置く

これは日本でも昔からサイドチェンジ、逆サイドに長いボールを入れる事の有効性は昔からあったと思います。

スペインの場合ですと、コンセルバシオン・デル・バロンで短いパスを何本も回して、相手が集結、食いついてきた所で逆サイドに展開する事が多いです。これも意図的にショートパスで相手DFを寄せておいて、その間に味方のサイドバックがオーバーラップしたり、3トップの場合は逆サイドのウィング気味の選手がフリーでもらうケースが多いと思います。

こちらは実際のトレーニングメニューの動画となります。

私もU12、U15カテゴリーで教えるときにはコンセルバシオン・デル・バロン(ポゼッション)のトレーニングを入れて、その後にカンビオ・デ・オリエンタシオン(サイドチェンジ)のトレーニングを入れていました。

この動画のトレーニングですとジュニア・ジュニアユース年代では難しすぎるので、もっと簡素化して、キーファクターだけを切り取って、シンプルなトレーニングメニューを作成しました。

そして、日本人の課題である決定力を鍛えるために、必ずフィニッシュまでつながるセンタリングからシュートまでのパターンをトレーニングに組み込んでいました。

最初は選手も混乱していて、なかなかうまく行かないのですが、上記のメカニズムや体の向き、コントロールオリエンタードを意識して、半年位続けているとU12カテゴリーの選手達も習得する事ができました。

その後は、敵DFを付けたり、全体の強度を上げて、プレイスピードと正確性を意識させていきました。

やはり積み重ねでトレーニングを重ねていくと、実際のゲームの中でも使えるようになってくると思います。

Principios Ofensivos (オフェンス原則)⑧デスマルケ(Desmarques)

特徴

マークを外す

■ポゼッションしている時に相手の監視から抜け出ること
■フリースペースをとること。デスマルケは下記の二種類がある。
  ①Desmarque De Apoyo (デスマルケ・デ・アポジョ)

   →ボールを保持している味方のプレーをより簡単にして、サポート(アポジョ)を行うとき
  ②Desmarque De Ruptura (デスマルケ・デ・ルプトゥーラ)

   →ボールホルダーの仲間を超える、相手ゴールとの距離を縮める。マーカーを突破。つまり裏抜け、裏への動き。

【デスマルケの目的・意図】
■ボール保持者に選択肢を与えるため
■プレーの主導権を失わないため
■ボールを保持するため
■ゲームをコントロールするため
■幅と奥行きを得るため
■相手のディフェンスを乱すため
■プレーリズムを相手に強要させるため

上記の動画は、②Desmarque De Ruptura (デスマルケ・デ・ルプトゥーラ)になります。非常にシンプルで出し手と受け手の2人の関係から裏を取りに行っています。バルサの場合、3人目の連動やオフザボールの動きでデスマルケをすることが多いのですが、デスマルケと言うと上記のシンプルな裏への抜け出しをイメージするとわかりやすいと思います。

具体的な特徴・練習内容

ボール保持者に要求されること】
■周辺視野

■短時間での瞬時の判断能力

■瞬間的に仲間や敵のポジションや動きを把握する視野

■ボールの強さは、受け手の走るスピードと合っていること

■絶妙なタイミング、受け手の欲しいタイミングでボールを出すこと


【ボールを受ける側に要求されること】
■高い集中力

■犠牲と団結

■コンスタントな動き

■適切な場所に適切なタイミングで

■オフ・ザ・ボールのプレーを知ること

■フリースペースを活用するための準備ができていること

最近日本でも徐々に浸透し始めている用語かもしれませんが、私もデスマルケという語感が好きで、好んでこの戦術用語を使用していました。ライン間、背後を取る動きはタイミング、スピード、出し手との阿吽の呼吸が必要だと思います。

戦術用語、言語化はされていますが、選手としての経験談からするとトレーニングや実戦でチャレンジして、トライアル&エラーを繰り返すことが大事だと思います。そのうち、スペースへの入り方、タイミング、どこがベストポジションかがわかってくると思います。

特に最近ではディフェンス戦術は進化したため、どこのチームもインテンシティが高く、整備されたディフェンスラインに対して得点を取ることは難しくなってきていると思います。

また、最終目標であるゴールを奪うためには、相手ゴールに向かっての動き、バイタルエリアへの侵入、縦パスを入れたり、サイドチェンジ(カンビオ・デ・オリエンタシオン)をしたり、ポケットに侵入したりと非常に様々な戦術を駆使する必要があると思いますが、その中でもどのタイミングで、いつ、どの位のスピードで、どこに侵入するかはとても重要になってきています。

デスマルケという一見わかりやすく、言葉にしやすい言葉ではありますが、とても奥が深い戦術となります。

日々のトレーニング、ゲームの中で何度もチャレンジして、パスの出し手とのアイコンタクト、タイミングを合わせながら、習得する事になると思います。

私も今でも週末にサッカーをする時は、FWをしていますが、いつもデスマルケを意識してプレイしています。

どうやってボールを受けようか、フリーで受けるにどうすればよいか、ゴールに直結・シュートが打てるスペースはどこか考えてプレイしていますが、やはり見ること、判断することが非常に重要になってくると思います。

まとめ

本日は、スペイン基本戦術⑥コンセルバシオン・デル・バロン、⑦カンビオ・デ・オリエンタシオン、⑧デスマルケについての説明でした。次回でもさらに基本戦術の紹介をしたいと思います。

スクールやチームのトレーニングでは実際にこのような戦術用語やスペイン語を使いながら、トレーニングを構築して、言語化・可視化をして、クレバーな選手を育成していきます。

ぜひ、一度練習体験にご参加ください。皆さんとピッチで会えるのを楽しみにしています!

本日もベルビュースポーツアカデミー/ベルビューフットボールクラブ府中(BFC府中)のホームページにご訪問頂き、ありがとうございました。アスタルエゴ。

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この記事を書いた人

志村コーチのアバター 志村コーチ 代表理事・監督

フットボール歴40年。現在は日本にてクラブチーム・中学校のコーチをしながら、レアルマドリッド大学院にてフットボールを研究中。直近の目標はスペイン・アジアの最上位ライセンス(UEFA Pro・AFC Diploma Pro)を取得し、スペインで監督をすること。最終目標は、スペイン戦術・スペイン語を標準装備した各拠点のBFC選手達がラ・リーガの選手として活躍すること。まだまだ時間が掛かりそうですが、皆様のご支援・ご協力の程、よろしくお願い致します。

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