【スペイン蹴球戦術論Ⅴ】スペインサッカーの戦術用語 オフェンス編⑤最終回

Buenos Dias! Come estas? (おはようございます!みなさん、お元気でしょうか?)

ベルビュースポーツアカデミー/ベルビューフットボールクラブ府中(BFC府中)のホームページにご訪問頂き、ありがとうございます。

本日もスペイン蹴球戦術論講座オフェンス編第5弾について説明したいと思います。

ようやく、戦術論講座オフェンス編も本日が最後となりました。

最近では、サッカー、フットサルでも戦術という言葉をよく聞くようになりました。やはりJリーグ・Fリーグが開幕し、ワールドカップに出ることで世界基準の指導者、選手が来日して、日本のレベルが急激に上がったことが理由だと思います。

第4種でもT1・T2のチームで、現北海道コンサドーレのミシャ・ペトロビッチ監督の可変システムを使いこなしたり、グアルディオラが考案したポジショナルプレイ・5レーンまで試合で出してくるチームとも実際に戦う事もあり、非常に驚きました。

スペイン人と比べても最近の若い日本人指導者の方が非常に熱心で、クレバーな方が増えてきていると感じています。スペインは高いクオリティ・経験を持った指導者が多いですが、20年後、50年後は人数的にも同じレベルに立っているのではないかと予期しています。

ここ2年位、第4種、中学生と様々なチーム、選手を指導する機会があり、選手・保護者の方と話をする機会が増えてきましたが、それでもまだまだブロック、市レベルだと戦術的なトレーニングをせずに、ひたすら基礎練習、試合ばかりをしているチームも多いと感じています。グラスルーツのレベルアップは今後の日本フットボールの課題だと感じています。

2024年3月に、マドリッドに訪問した際に、レアルマドリッドのスカウトの方とお会いする事ができました。そこで選手の見るポイント、どうゆう選手を推薦していくのかについても質問しましたが、やはりレアルでもゲームモデルがあってそこに合致する選手、またはポテンシャルのある選手は、スカウトの目に留まるそうです。そして、継続してスカウトが何度も彼らのパフォーマンスを見て、レアルの下部組織に入っても違和感なく、プレイできるかを見ているとの事でした。

所属しているチームが強い、弱い関係なく、スカウトの人達はダイヤの原石を探して、たくさんの試合をチェックしています。その時に私も同席させて頂きましたが、どのチームもゲームモデルを持っていて、そこに紐づいた戦略・戦術があり、小学4年生でも大人顔負けの戦術的に意図を持ったゲームを展開しています。

やはり、こうゆう所に、スペインのサッカー大国としての強さ、ポゼッションにこだわる姿勢があるのだと感じました。

この蹴球戦術論では個人戦術に近い用語の説明となりますが、その前提にはゲームモデルやピリオダイゼーションの考え方、5レーンコンセプトもあったりと、4種年代の小学生から、ものすごいスピードで戦術理論が議論、研究、ゲームでの実装がされています。今はスペインでも昔のバルサがやっていたティキタカ・ポゼッションよりもより縦に速い、カウンター型のチームも増えてきており、FCバルセロナでさえ縦に速いサッカーを志向してきていると感じました。

上記のような環境でスペインでは、小学生の頃からプレイしていると選手達もどんどんブラッシュアップされて、戦術脳が搭載された選手に進化を遂げていき、その中でも厳しい競争を勝ち抜いた選手がラリーガでプロ選手として活躍していくんだと理解しました。

スペインの国民性、文化が一体化して、フットボールが根付いていくという事を実感しました。

個人戦術・グループ戦術とは何か?

さて、今日は攻撃編第5弾最終編となりますが、スペインで色々なカテゴリーの練習を見学して感じたことは、どの年代でも、小学生でも中学生でも、戦術がしっかりしていて、練習メニューの内容、流れ、考え方なども一貫しており、ほとんど変わらないという事です。

小学生の時から、公認のライセンスを持った指導者からゲームモデル、戦術をインストールされると、20歳位でサッカー選手としては完成するよなと妙に納得してしまいました。

そして、年代が上がると球際の強さ、インテンシティがどんどん上がっていき、その中でプレイをすることが要求されるため、自ずと技術レベルや戦術レベルも上がっていくというのを感じました。第4種年代のU10、U11のリーグで上位にいるチームはやはり球際の強さ、スピード、フィジカルなどがワンランク上だと感じました。

3回のスペインでの指導者研修を経て、行くたびに私も新しい発見があり、またスペインフットボールも進化しているので、非常に興味深いと感じています。。

以前も申し上げたように、トレーニングは基本90分以内で、その90分間の中でインテンシティを最大レベルに上げるために、1つのトレーニングメニューは10分以内、実際のゲームに近い再現性の高いトレーニングを行う事を意識して、指導者はメニューを事前に準備しています

日々の練習は90分しかないので、練習当日も事前にトレーニングメニューを組んで、開始前の30分前にピッチに行き、事前に全てマーカー、コーン、ビブスなどの必要な用具はセットしておき、休み時間等の無駄な時間を無くして、効率よく質の高いトレーニングを提供している姿も見ることができました。

Principios Ofensivos (オフェンス原則)⑬リトモ・デ・フエゴ(Ritmo de Juego)

特徴
プレーリズム、試合の始まりから終わりまでプレーの動作の強度が変わらないこと

※複数の動きによって特徴付けられます。例えば、

①選手のランニングスピードによるリズム

②ボール、パススピードと軌道(ハイボール、グラウンダー)によるリズム

下記は10年前のスペインラリーガでの特徴になるかもしれませんが、

■バルサはゆっくりしたリズムで、ショートパスで時間が掛かっても繋いでいく。

■レアルは、早いリズムで、中・長距離のパスで前進

具体的な特徴・練習内容

パスゲーム、ポゼッションゲーム、ハーフコートゲームの中で、

◆タッチ数

◆パスの成功数

◆ゾーン(エリア)区分けをする事で制限を掛ける

◆相手ゴールに向かっての前進を意識させる

上記の制限を付けていくとより効果的なトレーニングになると思います。

少しイメージがしづらいと思いますので、Youtubeの動画にて説明します。

こちらも動画として大分古いですが、イメージするにはわかりやすいと思います。

黄金時代のバルサはこのようにどのゾーンにいても同じリズムゆっくりとテンポよくショートパスで時間を掛けて侵入しているのがよく理解できると思います。

Principios Ofensivos (オフェンス原則)⑭テンポリサシオン(Temporizaciones)

特徴

タメを作る動作

以前の日本代表で言うとこのようなプレイをしていた選手は、ラモス瑠偉、名波浩、中村俊輔、遠藤保仁、本田圭佑が上げられると思います。自分達のボールになった際についつい相手ゴールに向かって速く攻めてしまう傾向があると思いますが、その際に敢えてプレイをゆっくりする事で味方のサポートを待ったり、サイドバックのオーバーラップの時間を作ったり、トップへのタイミングを外したスルーパスを狙い行ったりする際に使う戦術となります。

具体的な特徴・練習内容

■プレイ中に敢えて、意図がある遅い動作をする。
■テンポリサシオンを行うチームがアドバンテージを得ること。

■テンポリサシオンは以下の要素が影響する。

 ・試合の結果(特に負けている時、残り時間が少ない中で得点を取らないといけない時)

 ・大会のレギュレーション(予選、トーナメントで得失点、得点が必要なとき)

 ・時間(試合終了までの残り時間)

 ・アポジョ(サポート)

上記の場合、テンポリサシオンをするのは得策ではないので、逆にプレイスピードを上げて、シンプルに相手ゴールに前進していく事が必要となるかもしれません。

最近の日本代表ではサイドに世界でも通用するスピード、技術、フィジカルを備えたアタッカーが出てきたため、テンポリサシオンは重要視されていない傾向があるかもしれませんが、久保建英選手のプレイを見るとテンポリサシオンを意識して、常にプレイしているのはわかると思います。やはりバルサのカンテラ(下部組織)で育ったため、本戦術も体得しているためだと思います。

Principios Ofensivos (オフェンス原則)⑮ベロシダッド・エン・エル・フエゴ(Velocidad en el Juego)

特徴

プレイスピード

同一チームの選手達による、正確で適切な方向へのボールに対するアプローチ(キック、パス、ドリブル)によって迅速に実行された動作のこと。

■無駄なトラップ、ボールタッチをしないこと+体の向き(コントロールオリエンタード)

■混乱せずに適切で正確なアクション

 ・緩急(速かったり、遅かったり)

 ・得点チャンスでのプレイスピード

少しわかりづらいので、下記の図にて説明します。

サッカーはどのエリアでもスペース・時間的な余裕がない状況にあるため、迅速なプレイスピードで局面を打開していく必要があります。そのためには、状況を認知して、スペース・時間を探し、適切なプレイを意思決定しなくてはいけません。

特に上記図の▲スペースなし、▲時間的な余裕がない場合、シンプルにプレイして、全体のプレイスピードを上げていく必要があります。ポジション的に言うと、特にビルドアップ時に360度から相手プレスが掛かるトップ下、ボランチの中盤のスペース、バイタルエリアのトップ選手がボールを持った局面が当てはまります。

この状況下の場合、高速で周りの状況を認知し、迅速な意思決定を行い、プレイを完結する必要があるといえます。

ベロシダッド・エン・エル・フエゴ(Velocidad en el Juego)はこの一連のプレイの流れの事を指しています。

具体的な特徴・練習内容

この練習のトレーニングをするには、ゲーム形式のインテグラルトレーニング形式にして、ピッチを実際よりも狭くして、よりプレッシャーの掛かる状況を作ると良いと思います。

また、ピッチの中で3分割して、フリータッチ(アタッキングサード)、2タッチ(ミドルサード)、1タッチ(ディフェンディングサード)の制限を付けるとよりプレイスピード、認知力を速めるトレーニングになると思います。

私の場合、ゲーム形式の前にアナリティカルトレーニング(ロンド、対面パス)、グローバルトレーニング(ポゼッションゲーム等)を行い、最後にインテグラルトレーニングを実施する形をとります。そして、本インテグラルトレーニングの際に、4つの局面の現象が出た際には、そこでフリーズ、コーチングをしながら、選手に実際のゲームでのイメージを促すようにします。

Principios Ofensivos (オフェンス原則)⑯ビヒランシア(Vigilancia)

特徴

監視(リスクマネージメント)

◆味方がボールを保持(ポゼッション)している時、もしくはセットプレーを始める前に、相手の選手に対し前もって準備をすること。(相手選手を見ておくこと)
例:コーナーキック、ファウル、サイドバックが攻撃している時にセンターバックがフリースペースを見る。

ビヒランシアは攻撃時、守備時の両方の状況下で使う戦術用語となります。

ここでは、自分たちが攻撃態勢に入っていますが、相手がインターセプト、ボールを奪った時のショートカウンターに備えて守備の意識も持つことになります。

主に、ボランチやセンターバックの選手がこのような役割を担う事になると思います。

より理解するために動画を見てみましょう!

↑11秒付近でコーナーキックをクリアされた後に、メッシが相手のクリアボールを予測してカットしています。このプレイをすることで相手のカウンターを防ぐことができています。この動きがビヒランシアになります。

このような局面はセットプレイ、ポゼッションしている時、カウンターになっている時、あらゆる局面で相手カウンターに対するビヒランシアをすることでリスクマネジメントしていると言えます。

非常にクレバーな選手が攻撃と守備の両方の意識を持ってプレイしていると思います。

まとめ

本日は、スペイン基本戦術⑬リトモ・デ・フエゴ、⑭テンポリサシオン、⑮ベロシダッド・エン・エル・フエゴ、⑯ビヒランシアについての説明でした。今回でオフェンス編最終回となります。

スクールやチームのトレーニングでは実際にこのような戦術用語やスペイン語を使いながら、トレーニングを構築して、言語化・可視化をして、時間を掛けて、クレバーな選手を育成していきます。

ぜひ、一度練習体験にご参加ください。皆さんとピッチで会えるのを楽しみにしています!

本日も一般社団法人ベルビュースポーツアカデミー、ベルビューフットボールクラブ府中(BFC)のホームページに訪問頂きまして、ありがとうございました。

それではまた。アスタルエゴ!

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この記事を書いた人

志村コーチのアバター 志村コーチ 代表理事・監督

フットボール歴40年。現在は日本にてクラブチーム・中学校のコーチをしながら、レアルマドリッド大学院にてフットボールを研究中。直近の目標はスペイン・アジアの最上位ライセンス(UEFA Pro・AFC Diploma Pro)を取得し、スペインで監督をすること。最終目標は、スペイン戦術・スペイン語を標準装備した各拠点のBFC選手達がラ・リーガの選手として活躍すること。まだまだ時間が掛かりそうですが、皆様のご支援・ご協力の程、よろしくお願い致します。

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