【スペイン蹴球戦術論Ⅳ】スペインサッカーの戦術用語 オフェンス編④

Buenos Dias! Come estas? (おはようございます!みなさん、お元気でしょうか?)

ベルビュースポーツアカデミー/ベルビューフットボールクラブ府中(BFC府中)のホームページにご訪問頂き、ありがとうございます。

本日もスペイン蹴球戦術論講座オフェンス編第4弾について説明したいと思います。

最近では、サッカーの中で戦術という言葉をよく聞くようになりました。私が小学生、中学生の頃はまずは個のフィジカルだったり、技術などが重要視されており、戦術的なサッカーをしていたチームは非常に少なかったように思います。

私が高校時に所属していたFC町田ユースでも、戦術練習はほとんどせずに1対1やシュート練習などに練習の大半を割いて、最後にゲームをするという形でした。

日本の大学、社会人チームの時も戦術的なトレーニングというのは特になくて、試合の中で何となく特定の選手で話し合っていて、感覚的にプレイしていた記憶があります。

私が初めて戦術トレーニング、フリーズ、JFAのトレーニングメニューで推奨されているTR1・TR2などを体験したのは、アメリカ留学時に所属したサッカー部でのトレーニングでした。そこで、ポルトガル人の監督に教えてもらいました。

当時、こんなサッカーの教え方があるんだと非常に感動した記憶があります。それが25年前です。

そして、2018年・2023年にスペインに行った時に、ヨーロッパやスペインのクラブでは100年以上前からプロリーグがあり、その時から戦術についての研究がアカデミックに学術的に行われていたことを知り、とても驚きました。

この蹴球戦術論では個人戦術に近い用語の説明となりますが、その前提にはゲームモデルやピリオダイゼーションの考え方、5レーンコンセプトもあったりと、実はヨーロッパのサッカーシーンではものすごいスピードで戦術理論が議論、研究、ゲームでの実装がされています。グアルディオラが発展・実装した5レーンも今では時代遅れとも言われています。

そして、各町のグランドに行くと、そこにいる保護者や観戦者の方々は、今のプレイはここが良かった、あのプレイはデスマルケとパレッドの組み合わせだ、この時間帯で今は我慢して、後半からコントラアタケしてゴールを奪うぞ!など、まるで皆さんが自チームの監督のように知識に長けています。

そのような環境で小学生の頃からプレイしていると選手達も過度に緊張もせず、楽しみながら、頭を使ってサッカーをしていたり、意図のあるプレイをしているのがわかります。

これがフットボールが根付いていくという事なんだと実感しました。

個人戦術・グループ戦術とは何か?

さて、今日は攻撃編第4弾戦術となりますが、スペインで色々なカテゴリーの練習を見学して感じたことは、どの年代でも、小学生でも中学生でも、戦術がしっかりしていて、練習メニューの内容、流れ、考え方なども一貫しており、ほとんど変わらないという事です。

小学生の時から、公認のライセンスを持った指導者からゲームモデル、戦術をインストールされると、20歳位でサッカー選手としては完成するよなと妙に納得してしまいました。

そして、年代が上がると球際の強さ、インテンシティがどんどん上がっていき、その中でプレイをすることが要求されるため、自ずと技術レベルや戦術レベルも上がっていくというのを感じました。

2回のスペインでの指導者研修を経て、私も指導の考え方が変わりました。それまでは、長時間ボールに触っている事、個の技術を磨くことを重要視していました。例えばリフティングだったり、コーンドリブルであったり、1対1をひたすらやり続ける事だったりです。実際にそうゆう練習をすることで市内の大会では優勝したり、入賞したりするのは難しくありませんでした。

しかしながら、スペインに行ってから、練習時間は90分以内を心掛けて、その90分間の中でインテンシティを最大レベルに上げるために、1つのトレーニングメニューは10分以内、実際のゲームに近い再現性の高いトレーニングを行う事を意識するようになりました。

私が小さい時もそうでしたし、以前指導していた少年団でもそうなのですが、未だに低強度の長時間練習を推奨しているチームも多いと思います。その結果、選手のモチベーション低下、ケガの多発、夏場では熱中症のリスクなどがあります。やはりトレーニングは最大でも2時間、90分がベストだと思います。その結果、ケガの予防にもなりますし、常に高い強度で集中してトレーニングもできます。

これもスペイン人のインストラクターにアドバイスされましたが、年間のトレーニング計画を作成して、それを月次・週次に落とし込んで、さらにリーグ戦・カップ戦のスケジュールも含めて、練習の強度、強化メニュー、フィジカルコンディションを完璧にコントロールしていく事が大事だと言われました。

そして、日々の練習も90分しかないので、事前にトレーニングメニューを組んで、開始前の30分前にピッチに行き、事前に全てマーカー、コーン、ビブスなどの必要な用具はセットしておき、休み時間等の無駄な時間を無くして、効率よく質の高いトレーニングを提供する事もアドバイスされました。

ライセンス講習修了後は、私が指導する場合、上記を念頭にして、90分程度のトレーニング、1つのメニューは基本5分程度、最大でも10分程度にして、再現性のある、強度の高いトレーニングを提供していました。今もその考え方は変わっていません。

そうすると小学生でも常に集中していて、一生懸命取り組んで、かつ怪我もなく、サッカーを楽しんでいます。そして、フットボールの理解も深くなり、総合的に上手くなり、結果的にパフォーマンスが上がり、勝率も上がっていきました。PDCAや良い循環が生まれて行き、ピリオダイゼーションというのはこうゆう事かと実感しました。

Principios Ofensivos (オフェンス原則)⑨デスドブラミエント(Desdoblamientos)

特徴
ポジションチェンジ

■ボールを保持しているチームの2人ないし、それ以上の選手で一時的にお互いのポジションを交代するアクション。
■ある選手が自分がいるゾーンから離れる→他の選手がその場所を埋める
■ピッチ上を合理的に埋めていく事を継続すること
■誰が埋めるか?→近い選手、もしくはあらかじめ決めている選手
■ボールを失うことを予測しておく

具体的な特徴・練習内容

サイド攻撃、ポジションの入れ替え、スペースを埋めていく

この”デスドブラミエント”はとても重要なので、スペインでサッカーをしたい選手は必ず憶えてほしい戦術用語です。

5レーン理論ともセットで考えていくと良いかもしれません。※5レーンについては後日解説します。

最近、日本代表の試合でもサイドバックのポジショニング、ボールをもらう位置について議論が上がっていると思いますが、この戦術がまさにそうです。こないだのイラン戦でも左サイドバックの伊藤洋輝選手のポジショニング、ボールのもらう位置、攻撃するタイミングについてかなりの意見が出ていたと思いますが、まさにデスドブラミエントの事となります。

現代サッカーは守備戦術が構築されて、ディフェンスのブロックも強固になり、非常に洗練されているチームがどの年代でも増えてきていると思います。先日のイラン戦でも相手はガチガチにカウンター戦術を強いてきて、後半日本代表は全く崩せなかったことと思います。

その守備網をブレイクするにはレガテ(ドリブル)で剝がしたり、デスドブラミエントでスペースを作って、バイタルエリアに侵入したりと言った事が必要になってきました。

私の場合、この動きを憶えさせるためにデスドブラミエントを入れた、いくつかのパターン練習を最初DFなしで行い、慣れてきたらDF役を付けて、最終系で紅白戦で試してみて、TMでもチャレンジしてみるというプロセスを取っています。

最初は2-3パターン位の基本パターンで数か月位掛けて浸透させます。最初はゆっくりでも良いのですが、徐々にスピードアップ、細かいトラップの位置、ポジショニング、タイミングなどについてコーチングしていきます。

日本のU12のチームで全くの初見から導入した場合、試合でも使える、現象として出せるまで半年位掛かるかもしれません。

私は大体U10(小学4年生)位から始めていきます。

U12年代でも高学年になると個の動きだけでは崩せなくなるので、デスドブラミエントの戦術とチームでの連動した動きは非常に重要だと思います。

スペインのジュニア年代でも大体U9位からトレーニングの中で始めていると思います

Principios Ofensivos (オフェンス原則)⑩エスパシオ・リブレ(Espacios Libres)

特徴

フリースペースへの走り込み(3人目の動き)

エスパシオリブレは以下の3つが基本要素となります。
①創造→スペースを作る動き。事前に仲間が動くことによって、その選手がいなくなったスペース。
②占有→埋める。事前に仲間と敵選手がいなくなったことにより空いたスペースに移動すること。
③活用→スペースを活用。出し手(パサー)は適切なボールスピード・質で供給すること。

具体的な特徴・練習内容

【相手のマークに応じたエスパシオリブレ】
■マンマーク→ひきつける動き
■ゾーン→適した場所への早いボール回し

これはバルサのポゼッションの中で非常に多用していた戦術となります。日本代表でもよく見れる動きだと思いますが、3人目が受け手となってスペースに入り込む動きになります。

理論上は下記の動画が参考になります。

少しわかりづらい方は、古い動画となりますが、日本代表対オランダ代表の下記の動画を見るとよりイメージしやすいと思います。

34秒位から攻撃が始まり、最後本田圭佑選手のゴールとなりますが、この一連の動き、特に最後の本田選手の動きがエスパシオ・リブレになります。

このようにうまく行くと流れるようなゴールが生まれますが、個人のイマジネーションやインスピレーションに頼らなくても、トレーニングする事で再現する事は可能となります。

こちらもデスドブラミエントと同じで最初はDFを付けずにパターン練習からゆっくりやっていくとジュニア年代からでも習得できるようになると思います。

このような動きは整備された相手DF網からゴールを奪うには必要な戦術となってきます。

Principios Ofensivos (オフェンス原則)⑪パレッド(Pareds)

特徴

ワンツー

2人以上の選手間で1タッチのみでパス交換して、相手を突破する事。
①グラウンダーのパス、もしくは浮き球で行う
②相手を回避(突破)するために使われる

これはもう説明は不要だと思いますが、私の世代の方ですと、キャプテン翼の翼君と岬君のゴールデンコンビによるワンツーになります。最近では、漫画のように二人だけで何回もワンツーする事はほぼ不可能となっていますが、こちらも基本的な戦術用語となるので、パレッド(Paredes)と憶えておくと役に立ちます。

具体的な特徴・練習内容

アポジョ(サポート)、デスマルケ(マーク外し)の練習と似ている。
決められたマーカーに移動しながら行うパス練習。
◆距離感、敵の位置、相手の足元の位置、ボールの軌道とスピード

トレーニング内容は、昔からあるコーンを置いて、その間をパレッドしていくというシンプルなトレーニングで良いと思います。

私の場合、パレッド習得のためのトレーニングは全くしていません。ゲームやパスゲームの中で声掛けする程度です。試合での再現性があまり高くないためです。

Principios Ofensivos (オフェンス原則)⑫プログレシオン エン エル フエゴ(Progresion en el Juego)

特徴

プレーの前進

◆ボールを運びながら、またはパスによって相手ゴールに向かっていきながら行う動作
◆主な現象→攻撃での深さ、攻撃での幅、コンスタントな機動性(モビリティー)

これは最近の日本のサッカー用語でいうと「相手を食いつかせる」という表現を使っていることが多いと思います。

最終的に相手のバイタルエリアに侵入して、ゴールを奪う事が目的ですが、相手チームがリトリートしていて、ゴール前にブロックを形成している事も多いかと思います。特に自分達が圧倒的に強くて、相手チームも認識していた場合、最初から引いているチームもいると思います。

その際に有効な戦術となります。相手が出てくるまでコンドゥクシオン(conduccion)でボールを相手前線まで運んでいき、出てきた(食いついた)所でパレッドやデスドブラミエントで崩していくイメージとなります。

具体的な特徴・練習内容

【練習と要素】
◆複雑性を入れること
◆他の戦術・原則も組み込んでトレーニングすること:ベロシダッド・エン・エル・フエゴ(プレースピード)、ゲームコントロール、デスドブラミエント(サイドチェンジ)など
◆ビルドアップ(組立)の要素を入れること
【ポイント】相手に対して正面でプレー+バックパス+前進を組み合わせる

まとめ

本日は、スペイン基本戦術⑨デスドブラミエント、⑩エスパシオリブレ、⑪パレッド、⑫プログレシオン エン エル フエゴについての説明でした。今回でオフェンス編第4弾となりますが、次回で攻撃編最終回となります。

スクールやチームのトレーニングでは実際にこのような戦術用語やスペイン語を使いながら、トレーニングを構築して、言語化・可視化をして、時間を掛けて、クレバーな選手を育成していきます。

ぜひ、一度練習体験にご参加ください。皆さんとピッチで会えるのを楽しみにしています!

本日もベルビュースポーツアカデミー/ベルビューフットボールクラブ府中(BFC府中)のホームページにご訪問頂き、ありがとうございました。アスタルエゴ。

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この記事を書いた人

志村コーチのアバター 志村コーチ 代表理事・監督

フットボール歴40年。現在は日本にてクラブチーム・中学校のコーチをしながら、レアルマドリッド大学院にてフットボールを研究中。直近の目標はスペイン・アジアの最上位ライセンス(UEFA Pro・AFC Diploma Pro)を取得し、スペインで監督をすること。最終目標は、スペイン戦術・スペイン語を標準装備した各拠点のBFC選手達がラ・リーガの選手として活躍すること。まだまだ時間が掛かりそうですが、皆様のご支援・ご協力の程、よろしくお願い致します。

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